はっきり言おう。この人の事が嫌いだ。

「話聞こうか?」

テンプレートの様な甘言すら苦く感じる。

「大丈夫です」

適当にあしらうと、後藤さんは何故か笑った。それを尻目に揚げたホットスナックをショーケースに並べた。

「どんな人なの? 同居人」

私は言葉に詰まった。千春のことを他人に説明したことが無いから。

「簡単に言うと、仏頂面で文句言ってくる人ですかね」

「え、なにそれ。モラハラじゃん」

改めて言われるとそうなのかもしれない。それが当たり前の時点で私たちの関係は可笑しいのだろう。でも、私は千春から離れられない。私には彼しか居ないから。

千春は私との関係をどう思っているのだろう。例えば、恋人だと思っていたとして、大切に思っていたとしたらあんな態度はとらない筈。やはり都合の良いセフレだと思っているのだろうか。そうすると一緒に住む理由が消滅してしまう。たしか、千春が冷たくなったのは四年くらい前。高校を卒業して二人で家を出た頃。特に何も無かったと思うけれど。私がムカつくことしかしないからかもしれない。

「おーい。雫ちゃん?」

後藤さんが私の視界に入り込んでいた。私は意識を体に戻し、揚げすぎたと思われる唐揚げを慌ててステンレストレーに移した。

後藤さんは私の肩を抱きながらケラケラ笑う。不快感に襲われたが、男の力に勝てる筈もなく、泣く泣く諦めた。

バイトが終わるまで、あと五時間。

次回更新は8月15日(金)、20時の予定です。

 

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