【前回記事を読む】駐在員として過ごした英国での家族生活の記録――地域社会への参加で感じた思いを等身大で綴り、人生を楽しむヒントを届ける

第1章 英国生活の始まり

1.クルマと地図

当時、日産は英国日産製造(NMUK)でプリメーラ(Nissan Primera)を生産しており、私は通勤用として4ドアセダンを、家族が来てからは追加で5ドアハッチバックを新車リースすることになりました。リースは半年程度で更新されたので、駐在期間中に4台のプリメーラが私たち家族の仲間として活躍してくれることとなりました。

O氏の助言に従い、ミルトン・キーンズの街中にあるショッピングモールで真っ先に購入した大判の地図本が、「Big Road Atlas Britain 1996」です。

まだ車載カーナビなどは存在しない時代でしたので、英国全土をカバーする大判の道路地図は大変便利な必携品で、常時クルマのお供をしてくれました。ガムテープで補強した表紙や、あちこちのページにある書き込みやラインマーカーの表示を見ると、この地図をどれだけ使い込んだかわかります。

家族が到着してからは、地図を読むのはもっぱら妻の役目で、走りながら次は右だの、左だのと今でいうカーナビの役割を果たしてくれたものです。

2. 町探し、家探し、学校探し

NETCに出社し、人事のオリエンテーションを受けて入社手続きを終え、着任挨拶をあちこちの部署に一通りし終えて担当する仕事の引き継ぎをした後に、リース車両が用意できるまでの間の仮利用車両として乗用車のマキシマ(Nissan Maxima)を貸与してもらい、居住する町と家探しを早速始めることになりました。

NETCは、日産の欧州における自動車開発拠点として多くの日本人駐在員と英国人社員の混成チームで協働していました。

バッキンガムシャーのクランフィールド(Cranfield, Buckinghamshire)という町にあり、近くにはクランフィールド大学(Cranfield University)がキャンパスを構えています。アクセスは高速道路M1のジャンクション14を降りて東方に約4kmの距離です。周りは一面豊かな田園地帯が続いているのどかな場所です。

これからここに毎日クルマ通勤することを前提に、居住地を探すにあたり、私は次の3点を方針に定めました。すなわち、①片道1時間以内で通勤可能なこと、②子どもの教育に問題がないこと、③日常生活では日本人同士で群れるのではなく、地元の英国人と仲良く暮らせること。これに則って、早速会社が提案してくれた複数の物件を見ることから家探しを始めました。