(昨日は普通に話していたのに……。それにしても、普段なら病院も、まずは私に電話してくるのに、こういう時は、やっぱり嫁ではなくて息子に最初に知らせるものなんやなぁ……)

多少がっかりしながらも、もう少しの間頼む、頑張ってて、せめて私が着くまでは――などと気持ちはあせるが、病院とは逆方向に向かっている。この事態に、「駅に行かないで、このまま病院へ行こうか」と言う佳奈美をなだめつつ、彼女を駅まで送ったその足で、私はすぐに病院をめざした。

その間、幾度となく孝雄に電話をかけたり、メールを送ったりしたのだが、まったく反応がない。かなり危ない状態のようだし、一刻も早く孝雄に知らせなければと、会社にも電話をしてみたら、「本日は終日外出の予定で戻りません」とのことだった。

(明日帰るってメールにあったけど、会社で仕事するんじゃないんだ……)

病室に着くと、義母は人工呼吸器をつけられて目を閉じていた。

「お義母さん、来たよ。しんどいなぁ……」

そう話しかけながら手を握ると、かすかに握り返してくれた気がした。

間もなく先生が来られて、カンファレンスルームへ誘(いざな)われる。もう覚悟はできていた。私はその説明を淡々(たんたん)と聞いて、ふたたび病室に戻った。

午前九時二十六分。メールをしてから一時間経っただろうか。〈了解しました、後ほど行きます〉と、ようやく孝雄から返信があった。病室の番号を送ると、また〈了解しました〉と。結局、孝雄が病院に来たのは、それから二時間くらいしてからだった。

病室に入ってくるなり、ジャージ姿の私を見て、「着替えてこい」と言う。

ずっと義母に付いていてやりたいと思っていた私は、一瞬ためらったが、逆らわないほうがいいと思い、言われた通りに、いったん帰宅することにした。そうして家で着替えを済ませた頃、孝雄から電話があり、

「お前が来るのを先生が待っている」

と。状況を察して急いで病院に行くと、義母はすでに息を引き取っていた。

そこからはバタバタと、いろんな手続きや段取らねばならないことが多くて、あっという間に時間が過ぎていった。そして葬儀が終わったその日に、孝雄はさっそく「仲間に礼を言ってくる」と言って出かけていき、そのまま次の日の朝まで帰らなかった。

次回更新は7月15日(火)、19時の予定です。

 

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