再びクラス中の双眸が、遠慮がちに動き出す。柳田先生は溜息をつく。失礼ながら園芸委員という名前的に、立候補者が少ないのは自明の理だろうと僕は思った。こんな瑣末なことに時間のかかっている要因が、なぜか自分にある気がして少し決まりが悪くなった。
ただ、この決まりの悪い時間は突如吹いた飄風によって消え去った。
「先生! 私やります! 学級委員だけど副だし、皆木くんとうまく協力しながらやるので、いいですよね?」
僕が立候補した時より、一層強いざわめきが起こる。小花あかりが立候補したからだ。
「いや、まあ問題はないけど、うーん」
先ほど掛け持ちはダメだと言ったことと、早く委員を決めたいという欲の衝突が、柳田先生の体から滲み出ていた。
「もしあんまり大変だったら言うので、その時は相談させてください! それでいいですよね?」
「そうか? なら悪いけど小花。お願いできるか?」 渋々な感じを演出しているが、下手な演技だなと思った。早く委員を決めたい欲が彼の中で勝ったのだろう。
「はい! 全く問題ないです!」
「じゃあ園芸委員は矢崎と小花で決定だ! これで委員会決めは終わり。明日から授業開始だから、今日はこのまま支度して帰っていいよ。ではまた明日! 皆木、早速だけど号令よろしく」
待ってましたと言わんばかりに、勢い良く和也が席を立った。
「はい! 気をつけ、礼!」
ありがとうございましたの唱和が終わると、卒然として椅子や机の足の摩擦音が教室内に轟き渡る。
「ねえあかり。園芸委員って結構大変だって聞いたよ? いいの? 地味だしさ。しかもあんま特徴のない矢崎くんと。顔は確かに良いけどさあ。まさか気があるわけじゃないでしょうね?」
「あはは! 早苗考えすぎ! 私小さい頃から近所の花屋さんを手伝ってたでしょ? 誰もいないならやりたいなって思っただけだよ」
「ならいいけど……」
小花あかりの隣に座る、小学校からの友人らしい香取早苗が小声のつもりで話しているが、明瞭な音で僕の耳に届いているぞと言ってやりたい。
次回更新は7月28日(月)、21時の予定です。