【前回の記事を読む】自分は何者だったのか。世の喧騒を逃れて身を置き、我を忘れて石庭に眺め入った。

第一章   再会

御殿門に入る石段は除雪されていたが、二人は一歩ずつ踏みしめながら慎重に上がった。

客殿から見える聚碧園(しゅうへきえん)は刈り込まれた低木が白い綿帽子を被っていた。
有清園(ゆうせいえん)の積雪はことのほか深かった。

宸殿(しんでん)の欄干(らんかん)から見渡す境内は白一色で別世界を思わせる。緑の杉苔は降雪で埋もれ、眺める往生極楽院(おうじようごくらくいん)の茅葺(かやぶき)屋根には積雪の重層ができており、楓の枝は雪の重みで地にしな垂れていた。

あたり一面、深閑(しんかん)と静まり返り、杉や檜の立木が寒空に向かって屹立(きつりつ)していた。時折、樹の高みから雪片が飛沫を上げて地に散っていた。

「お庭きれいですね」

「本当に、きれいだ」

二人はしばし見とれた。

「人の気配がしませんね」茅根が言った。

「ほんとですね。私たちだけみたい」白川は微笑んだ。

それから、ゆっくりと往生極楽院に向かった。除雪した渡り廊下はところどころ凍てついていたため、白川は茅根の差し出した手を取った。

往生極楽院の堂内には阿弥陀如来像(あみだによらいぞう)を中央に左側に勢至(せいし)菩薩坐像、右側に観音(かんぜおん) 菩薩坐像の阿弥陀三尊が鎮座していた。

白川は茅根が立ち上がりかけても手を合わせていた。

しばらくして門外に出た。御殿門の石段を二人は手を取り合ってゆっくり降り、土産物屋を兼ねた茶店に入った。

「暖かい」白川は思わず声を上げた。ウェイトレスが微笑していた。

二人とも入り口付近に置いてあるストーブに手のひらを差し出して暖を取った。

席に案内されると、白川はチャコールグレーのコートを脱いだ。スカーフを外し、ハイネックセーターとストレッチパンツの装いが現れた。

二人は抹茶と練り切りを注文した。