【前回記事を読む】「ねえ、もう一回して」ねだられて胃がギュッと固まった。彼女の中にもう一度入れるのか、子宮癌だと分かった彼女の体の中に…

うわさ

死なせて……

愉悦の中でよし子の胸が念じていた。

 

わずかにうとうとし、白んだころに床を抜け出た。

テレビ台の脇に置かれていた病院のパンフレットを手にした。

以来、よし子とは連絡がつかなかった。店が新しくなったのは仲間の話で知った。

孝介がその近くに足を向けることはなかった。

それぞれの苦悩

よし子のところから持ってきた病院のパンフレットは、東京からはるかに遠く、むしろ孝介のふるさとに近いほどだった。

その辺りから孝介は仕事に身が入らなくなった。一つの仕事が片付いて打ち上げをしても、「およし」に行くことはない。難しい病気を抱えて一人東京を離れてしまったよし子に、孝介は何もすることができなかった。それがこれほど自分を打ちのめすのかと不思議に思うほどうつ状態が続いた。