【前回記事を読む】単身赴任中で、よく店に来ていた彼…そういえば彼が二階に上がったのはずいぶん前だった。噂では家族をこっちに呼んだとかで…
花の棘
カウンターに座ると熱いお絞りでゆっくりと手を拭った。
烏賊墨ときんぴらとおでんと。孝介の好物が並ぶ。熱燗とお猪口は二つ。
「残り物よ」
「うまい……」
ずいぶんご無沙汰だった……
ちょっと寄りかかった孝介の肩が温かい。
居るというだけ。たわいのない話。もうすぐ今日が終わる。
「ありがとう、温まった」
立ち上がった背に、よし子はそっと声をかけた。
「孝さん……」
振り向いた孝介の胸に手を当てて背伸びし、唇を重ねた。