都バスは動いているという情報を掴み、外に出てみると、道路は大渋滞でどう考えても、帰宅までに数時間が掛かると予想出来た。

新橋から南麻布までなら、真冬の寒空の下だろうが、余裕で歩けると思い歩き出す。右脚は、既に引きずっていた。

地震による交通渋滞の中で新橋から第一京浜沿いを必死に歩くと、同じ考えであろう会社員がみんな一目散に前を向き、家路へと急いで歩いていた。側から見たら私も同じように思われていただろう、ふとコンビニの店内を覗くと、陳列棚は奥の白い壁がむき出しに見える。あるはずであろう食品や弁当が空になっている。それを見て私は、学生時代にバイトをしていたコンビニの改装を思い出した。

バイト仲間と陳列棚を作り、納品されてくる商品を手分けして並べる。冷蔵室に籠もり、携帯電話でメールを返しながら、ドリンクを補充する。

私が部活引退後、バイトをしていたコンビニは、フランチャイズ店舗だったため、比較的ゆるかった。オーナーは年中短パンだし、バイト仲間はギャル、ギャル男だし、暇を見つけては、バックヤードで廃棄されるおにぎりやパンを齧っていた。

よく利用しにくる客室乗務員の女性が綺麗だったよなあとか、その女性に「おでんください」って言われた時に、緊張して大根真っ二つに崩したよなーとか、その女性がコンドーム買いにきて、なんかエモかったよなーとか。

そんなことを思い出していた時、携帯電話が鳴る。

「おう! ケンボー 大丈夫か?」「店は大丈夫だからお待ちしております」ヒデジからだった。

札の辻辺りまで来ていたし、なんなら気がつけば、右脚を引きずるように歩いていたため、少し休憩もしたかった。あと、アルコールを妙に欲していた。

ちょうど彼女からも、既に帰宅したという連絡がきていたが、ここでも、アルコールの誘いに負けて店に顔を出すことになり、小一時間だけ寄ることに。

店内には帰宅を諦めた常連客が多数いて、いつもと変わらない金曜日の夜がそこにはあった。

店のビル自体古いものの、被害はなく、奇跡的にグラスは1個も割れていなかったようで、ヒデジは小指を立てながら、上機嫌に話していたが、大型モニターにはスポーツ中継ではなく、地震の規模と被害の大きさを伝えるニュースが、ひっきりなしに、流されている。

次回更新は7月13日(日)、20時の予定です。

 

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