「十億!」

僕は、ソファから立ち上がり、応接室の窓辺に寄っていった。夕刻だというのに、かなり外は暗くなっていた。窓から見る東京は、どれもこれも小さく見えた。

ここでは神宮の花火も目線より下に見えると聞いた。この風景の、どこか見えない先に、何十年も働いて少しもお金が手元に残っていない父さんと母さんがいる。

マコトにしてもカホにしても、貯金なんかないんじゃないかと思う。僕だって、ほんの少ししかない。しかし僕の目の前にいるユーは十億……なぜか不公平な気がして、仕方がなかった。

パソコンで、こちょこちょやって十億、まじめに五十年働いても、ほんの少ししか残らない現実。そう思うと、急に僕は腹立たしい気持ちになるのだった。

「ところで、俺に何の用なんだ?」

まっすぐにユーのことは見ずに僕はつっけんどんに聞いた。窓の外をみやったままだった。

「タッキー、今、おまえハッピー?」

僕はさっきと同じ質問をするユーの意図が分からなかった。

「ハッピーと言えば、ハッピーだし、ハッピーでないと言えば、ハッピーでない」

「実はさ、タッキーに僕の会社の仕事を手伝ってもらえないかと思ってさ、もし今、あまりハッピーじゃないんだったらね」

そう言う意味で、ユーは僕にハッピーかと聞いたのか? ようやく、なぜ僕がここにいるのかを知った。

「中学から十年だぞ、お互い変わったかもしれないのに、そんなに気軽に言っていいのか? だいたい俺はゲームなんかしない」

「それは心配ないよ。会社つくったのはいいんだけど、信頼出来る人が誰だか、分からなくてさ。それでタッキーのことが思い浮かんだんだ。タッキーなら信頼できるって。十年ぶりに」