【前回の記事を読む】「パーク内は手繋ぎしてくれるのかと思ってた。ガッカリ寂しいな」夢の国でも、お客様とセラピストの関係は崩せず。

Chapter 2

崩壊の始まり

夕暮れの中、パレードが始まった。並んで観ている中、ふと流星がこんな事を真由子につぶやいた。

「普段の俺の夜のプライベートな生活、真由子さんが知ったら、驚くだろうなぁ……」

あまりにも何気ないつぶやきだったが、真由子はその言葉に思いを巡らした。夜はバーテン時代のお店に毎晩飲みに行く、その後2丁目にも行く、お酒を飲んでばかりの生活のことかしら?……

真由子には、想像してもそれくらいの事しか思い浮かばなかった。最後の方に、幽霊屋敷の乗り物を3度連続で乗り、暗い室内で何度か真由子は、流星に、

「チューして欲しい。軽く口とか、ほっぺでもいいから……」

冗談ぽく、それでも勇気を振り絞って真由子は頼んだのだが、その願いは3度とも流星にスルーされた。流星は甘くないセラピストだった。

今日一日中そんな風で予約時間終了の19時になるので、パークの外に出た。真由子は電車、流星は新宿までバスで帰ると言って出口で別れた。真由子が、せめて東京駅まで電車に一緒に乗って帰れるかと思ったのにと思いながら歩いていると、背中越しに流星に言われた。

「これからも長生きしてくださいねー」

(えっ、今なんて言われたの? 何か凄くお年寄りの人に言うみたいな感じ。流星くん酷い……)

真由子が振り返ると文句を言える位置に流星はまだ立っていた。走って戻って流星に文句を言おうかと真由子は思ったが…出来なかった。無事にテーマパークデートを終えたのに、最後にぶち壊すような事はしたくないと思ったのだ、真由子は。

流星から、この前五反田デートの夜に掲示板にうっかりロングデートして仲が良い客だと書き込んだのを伝えてから、流星の真由子に対する態度は明らかに変わっていた。真由子への甘い接客は、まったくと言っていいほどなくなっていた。

このように男性セラピストが、女性客に優しくない接客をする事を塩対応というのを、真由子は後にイケラブ掲示板で知るのだが、流星の接客は、まさにそれに近いものだった。

(今日一日、凄く楽しかったって思いたいのに、流星くん何だかやっぱり冷たかったなぁ……)真由子は最後に流星からかけられた言葉を思い出して、悲しくなりながら、家路についたのであった。