渋谷のシーシャBARに着いた。シーシャBARの店内には長いホース状の水タバコの機械がいくつも並んでいて、インドや中東のようなエスニックな雰囲気である。
「真由子ちゃん、静かにパイプを深く吸って肺まで煙を入れたら、今度は水パイプを外して、フゥーって吐き出すんだよー」
流星がシーシャの吸い方を詳しく教えてくれた。真由子は若い頃から煙草も殆ど吸った事がない。シーシャの水パイプに慣れるのに少しだけ手間取った。加えて真由子は、あまり喉が強くないタチだった。微かに喉に来る刺激臭があり真由子は少しむせる。
何度か深く吸って吐くを繰り返すうち真由子はシーシャに慣れてきた。バニラ、マスカット、ジャスミン、ミントのような甘くフルーティーなフレーバーのシーシャを美味しいと感じる事が出来た。
若い流星のような男性とデートしなければ、シーシャのお店に来るコトなんてなかっただろう。シーシャBAR自体、セラピストのデート日記で真由子は知ったのだから。
その後は渋谷のファッションビル内でケーキが美味しいと評判のお店でアフタヌーンティーを楽しんだ。流星はボリュームのある生クリームたっぷりのショートケーキを、ナイフとフォークを使い、洋食マナーのお手本のように上品に食べ切った。
その様子を目の前で見た真由子は、(流星くんて、やっぱり育ちがいいんだな……。男性でケーキをナイフとフォークでお上品に召し上がる人は、皇室の方くらいだと、何となくイメージしていたから、本当びっくりしたわ。
私なんかフォーク1本で食べるのが当たり前なのに、何か恥ずかしくなってくるわ……洋食マナー講座に行きたいくらい……)
流星の父親は確か高校の物理の先生だから、お坊ちゃん育ちというわけではないけど、お婆ちゃんが金持ちでフレンチレストランに行くって言ってたな……それでかな……私はそんな高級レストランなんて行く事はないから、やっぱり生活のレベルが元々違うんだわ。
上品なテーブルマナーを見せつけた流星に対して、少し劣等感を覚えた真由子だった。アフタヌーンティーの後、渋谷スクランブル交差点を渡る時、真由子は流星を見失いそうになり、思わず流星の着ているシャツの肘の部分を掴んで腕に掴まり、そのまま腕を組んで道玄坂のホテルまで歩いた。
ホテルの部屋に入った途端にきつく言われた。
「ごめん真由子ちゃん、腕組んでここまで歩いてきたけど、渋谷や新宿とかは知り合いや俺の他のお客様も見る可能性あるから、手繋ぎや腕組みは、やめて欲しいんだ。申し訳ないけど……」
真由子は、ショックだった。流星からそんなコトを言われるなんて……。そして流星はこう続けた。
「このホテルの部屋の中だと真由子ちゃん、若く見えるんだけどなぁ……」
真由子は、内心、非常に落胆していた。
次回更新は6月28日(土)、18時の予定です。
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