「松島です。フェリーに乗ろうと。」

「いいですね。」

さあ終わりだ。紫は無言で最後の一口をごくんと飲み込み、席を立とうと動いた。

「では、失礼…。」

言い終わる前に男性は言った。

「良かったら一緒にどうです?松島。」

 

フェリーではカモメがやたら近くにピッタリくっついて飛んで来て、驚きながらエサを投げた。

「なんか臭い。でも可愛い。」

「エサ貰えるのわかってるんだね。」

さも恋人同士のように笑い合い、写真を撮り、景色を楽しんだ。まるで始めから連れだったように、妙に息が合った。それでいて、馴れ馴れしいとかいやらしいとかいう下心は感じなかった。一定の距離は保っていた。紳士の名は咲元、ひとつ下で、都内の食品会社で営業の仕事をしていると言った。

「あの島も地震で大変なことになったんだった。」

「ああ、そうですね。今はそんなことわからないですね。すごいですねえ。」

フェリーを降り、お参りをすると遅いランチを摂った。

「紫さんさっき、何を願ってた? 熱心だったから。」

すっかりリラックスした仲になったように、言葉も表情も和らいでいた。

「咲元さんは?」

「んー、僕は特に…健康かなあ。あと、交通事故に合わないように。体が資本だからね。」

「私は帰ったら職探ししないといけないから。」

「ああ、そう言ってたね。」

咲元は優しく微笑んだ。本当に、つい数時間前に会ったばかりとは思えないほど意気投合していた。朝食バイキングの後、一度ホテルの各部屋に戻ってからまた出かけたのだが、やはり隣だったのだ。