中学生になった時に、

「Sさん、学校で見かけないけど、引っ越したの?」

と友人と会話をした。その人は、中学受験し、別の学校に入ったとのことだった。千恵は良い学校に行き、良い会社に就職することがステータスだと思っていた。自分ができなかったことを娘に託したかったのだろう。娘もそう教わって育ってきたし、中学受験をするために小学四年生から塾に通わせた。

近所の子供たちも早くから塾に通わせ、良い学校に入ることを希望していた。私は親の見栄で、子供の進路を決めることに少なからず、抵抗があった。生まれてきた時代が違うのか、育った環境が違うのか、私には理解できなかった。

周りの大半の小学生が中学受験し、「Tさんのお子さんは有名な中学に受かったらしいわよ」などとママ友から情報を仕入れているようだ。

千恵は良い学校に入れさせようと躍起になっていた。いよいよこれから本番という時期が迫ってきてはいたが、千恵が娘の受験に付き添うことが難しくなり、私が全面的にサポートすることになった。

「パパ、この週刊誌買ってきて、読んでおいてね」

「何が書いてあるの?」

「中学受験する親の心得が書いてある。まずは、パパに読んでもらってから、面接時の想定問答や面接のリハーサルをしましょう」

千恵は私に、受験のための心構えや面接時のノウハウを教えてくれた。自分ができないので仕方ない。頼られていると思うと悪い気はしない。

今まで娘の教育や進路について、全て任せきりにしていた。娘のために自分ができることは何でもしてあげようと意欲が湧いてきた。娘と一緒に受験を乗り切るために、親としてどう振る舞うかを他の雑誌やインターネットで調べてみた。

次回更新は6月30日(月)、8時の予定です。

 

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