娘にはまだ千恵の病気について伝えていなかったが、もしかしたら病気のことは気づいていたのかもしれない。その場の空気を察し、気遣いしてくれた。

人参ジュースを買うために高速道路を使い、千葉方面に向かっていた。降りる出口は何度か教えてもらっていたが、いつも降りる際に不安になっていた。

「この出口で降りるんだっけ?」

と独り言を呟いた。そう思っていた途端、降りなければならない出口を通過してしまい、一つ先の出口まで行ってしまった。高速の出口を出てから左へ曲がるがいつもと景色が違う。その時、初めて間違いに気づいた。やっぱり、一つ前の出口で出なくてはいけなかった。

千恵から何度か出口の場所を聞いていたので、今更電話で確認するわけにはいかない。我が家の車にはナビは付いていない。二時間程度彷徨(さまよ)い、方向だけを頼りにやっとの思いで目的地に到着した。品物を買い、携帯メールで帰るコールをすると、

「道間違えてそんなに遅いんでしょ!」

やはり見透かされていた。自宅に戻ると、

「何度言っても分からないんだから、ナビ付けた方がいいんじゃない?」

千恵は、私が頑固で強情な性格だと知っていながら、わざとそういう言い方をした。

私は聞き流しながら、

「そうだね」

と相槌を打ったが、未だにナビは購入していない。

次回更新は6月28日(土)、8時の予定です。

 

👉『千恵と僕の約束』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】妻の姉をソファーに連れて行き、そこにそっと横たえた。彼女は泣き続けながらも、それに抵抗することはなかった

【注目記事】滑落者を発見。「もう一人はダメだ。もうそろそろ死ぬ。置いていくしかない…お前一人引き上げるので精一杯だ。」