【前回記事を読む】「あなたから誘惑したんでしょ?」「お前が辞めれば?」――あまりにしつこい上司のことを、会社のトップにまで相談したが…
ショコラ・ローズ
「お前、何故赤い口紅を塗らないんだ?」
競艇場にいる予想屋さんは、私の顔を見るなりそう言った。
「持っていないからです」
「若いのにもったいない。お前、一生結婚するな。お前は独身の方がいい。独身が似合う」
「そうですか」
「赤い口紅くらい買えよ。そのまつ毛は付けまつ毛か?」
「いいえ、自分のまつ毛です」
「お前、どこに住んでいるんだ?」
「国分寺です」
「国分寺? そうか、俺の父親は昔国分寺にいたんだ。国分寺に物件があってな、俺はそこには入らなかったけど国分寺へはよく行っていたんだ。そうか、懐かしいな。
女っていうのはな、面倒臭いんだよ。こっちは挨拶代わりに可愛いとか言ってやるだろ? そしたら急にモジモジしたりするんだ。馬鹿じゃないかと思うよ。お前は偉い。可愛いと言われても鋭い目つきを変えないな。堂々としてる。俺はな、そういう女が好きなんだよ。国分寺なら近いじゃないか。今度飲みに誘うから来いよ」
私は下を向いて笑ってごまかし、お辞儀をしてその場を去った。
クソオヤジが……。
赤い口紅と言われ、上京する前に通っていたファミレスでのひと時を思い出した。
「お姉さん、素敵な毛皮ね! 私も毛皮が大好き! この毛皮主人が買ってくれたのよ!」
私は何も言わず笑顔で会釈する。