この世の終わりを感じさせるのに、十分なシチュエーションだった。俺は暗闇と絶望を抱えながら、眠りについたのだ。

今、灯りが点いて、全体が把握できると暗闇のときほどの絶望感はないものの、見れば見るほど現実感がない場所であることがわかった。

声をかけてくれた、同室の男は30代くらいだろうか。浅黒く日に焼けていて、短くサイドを刈り上げた2ブロックのモヒカン頭。今っぽい髪型だ。

ブルドッグを彷彿とさせる印象。少し太り気味にも見えるが、筋肉の上に脂肪がついたような感じだ。身長は170センチくらい。部屋着の短パンから突き出した、ふくらはぎは太くて力が強そうだった。

目には輝きがあり、死んでいなかった。その奥に愛嬌があった。極悪人には見えない。

「はじめまして、岩井と言います。よろしくお願いします」と男は名乗った。俺は、

「村上です。よろしくお願いします」

と丁寧に挨拶した。この部屋には、俺と岩井さんの2人だけのようだ。

部屋をすべて見回して、少しずつ現実を把握するように努めた。まずは情報だ。4畳の部屋。天井は高く、6メートルはあるだろうか。外の天候がわかる程度の小さな窓がついている。もちろん格子つきだ。光はこちらまで届かない。

部屋の奥にトイレ部屋がある。周囲は壁で仕切ってあり、用を足しているときに、中が見えない作りになっている。臭いも漏れにくいだろう。床は薄緑色の畳。柔道場で使用されている、ビニールコーティングされた畳だ。

周囲の壁は、分厚そうなコンクリートに覆われている。コンクリートも薄緑色に塗られている。拳の甲で軽くコツコツと叩いたが、ひんやりと冷たく、しっとりしている。重みと厚みを感じる。簡単に壊せそうにない。

出入り口に面する壁には、金属製の鉄格子がはまっている。格子の隙間を通して、前面の踊り場と、留置場入り口の様子が見える。入り口を挟むように、2名の看守が座っている。

留置場内は、全体に緑の色で統一されていた。なぜ緑色なのか。何か心理的な効果があるのだろうか。オズの魔法の国か。

鉄格子越しに見える広場は、グレー色の無機質なコンクリート造りである。高さ60センチ、幅2メートルほどの手洗い場が設置されている。均等な間隔で、5つ蛇口がついている。キャンプ場の調理場と似ている。

格子越しに、外をジロジロ観察している俺に気づき、看守が俺に呼びかけた。