一.ユートピリッツ王国
その小さな王国の名は、ユートピリッツ王国。
国王、すなわち王さまの名前は、エドワード(Edward)。
王さまは、既に七十の歳を超え、髪の毛はまっ白です。
頭には、ひときわ大きい一粒の赤い宝石が飾られた王冠(おうかん)をかぶり、首からは、この国を治める者の証あかしである金色の大きなメダルをかけています。メダルの表には、「Edward」と国王の名が刻(きざ)まれています。メダルの裏側には、ユートピリッツ王国の森と湖と山々の美しい景色が細かく彫られています。
王さまは、いつでも背中をピンと伸ばし威厳(いげん)と風格(ふうかく)に満ちていて、誰が見ても立派な王さまと思うことでしょう。
しかし、王さまは、ずっと悲しみに沈んでいました。
それは、先の二年間に及ぶ大きな戦争で、大切なひとり息子の皇太子(こうたいし)アルバート(Albert)と、皇太子のお妃(きさき)である皇太子妃クリスティーナ(Christina)の二人を亡くしてしまったからです。
先の大戦は、それはそれは激しい戦争で、多くの国民が命を落とし、また幸せな暮らしも壊(こわ)されてしまいました。
国境を越えて侵略(しんりゃく)しようとする独裁国(どくさいこく)。この敵からユートピリッツ王国を守ろうとして始めた戦争でした。しかし、王さまは、多くの国民の命を守ることができなかっただけではなく、自分の大切な息子と皇太子妃をも守ることができなかったことで、さらに深い悲しみに沈んでいたのです。
幸いなことに、皇太子とお妃との間には五人の子どもがいました。王さまにとっては、五人のかわいい孫たちで、三人の王子と二人の王女。しかもこの孫たちは、「五つ子」だったのです!