〈件名〉お礼

地下鉄に乗りました。今日はありがとうございました。ことりの言う理由【1】でたかるとしたら、ビールと肴代くらいかな。あっ、それからシャワーとティシュくらいかな(笑)。


〈件名〉Re :お礼

こちらこそ有難うございました。何かしら、徹也さんと居ると自然になれます。乙女の気持ちに戻った感じ。ビールや肴代くらい貢ぎますよ。


〈件名〉R :

同じ! そうなんだ。今日ことりと話をしていて思ったんだけど、ことりの前だと自分が明るい人間になっているのに気づいたんだ。この前に逢った時も俺って明るく喋ってるって感じて、今日も同じように感じたんだ。大人が言葉を選んで喋るのではなく、少年が無邪気に今日あったことを母親に報告するかのように、そんな感じかな。


  

私も同じだ。職場でも日常生活でも他人と話す時は必ず言葉を選んでいる。社会人として医療者としての立場から外れないように、感情は押し殺し、泣くことさえも忘れてしまった。彼の言うように彼と喋っている時は、思ったことを素直に話せ、気持ちがとても楽だった。

この部屋では私たち二人だけの世界で、他の誰にも邪魔はされない。自由に会話が出来、自由に感情を表すことが出来る。でも、この部屋から一歩出れば彼は元の世界に戻ってしまう。彼が帰る時、私は彼に訊ねた。

「あなたが言う終活って何をしたいのかしら」

再会した日から気になっていたことだ。彼の表情は(うつろ)ろで、遠くを見つめているようだった。「こうしたい」と言って、さきほどハグした時のように短いキスをすると、扉の外の現実世界に消えて行った。