『私は、自分で申しますのも何でございますが、黄金の如き輝きを放つ浅黄色の地肌に黒鉄(くろがね)の取っ手と蝶番が大層似合う桐の箪笥でございました。

かれこれ十年にもなりましょうか、私の主であります奥方様が婚礼の祝いにと実家のご両親から贈られた物でございます。奥方様はもちろん、旦那様も、とても丁寧に扱ってくださいまして幸せでございました。

じきにご長男がお生まれになりまして、その子がとてもやんちゃ者であったのでございます。いつか我が身に体当たりを仕掛けてくるのではないかと気が気ではございませんでした。

案の定、恐れていたことが起こってしまったのでございます。お坊ちゃまが二歳と数カ月の折、奥方様の制止を振り切って、この私目掛けて突進して参りました。手に壊れてブリキの断片がむき出しとなった大きなおもちゃの自動車を持って……。

最初は水平な畳の上を走らせて遊んでいたのですが、突然、垂直に聳える私の顔を勾配豊かな坂道に見立てて一直線に駆け上がっていったのです。その後に残ったのが、深く刻まれたこの傷というわけです。

それ以降ご夫妻が私を見る目は、大きく様変わりしてしまいました。お二人とも完璧を好む質だったのでしょう。まさに傷物となってしまった私を疎ましくお思いになられ、段々扱いが雑となり、とうとうここに放り込まれる羽目と相成りました。

たった一つの傷だけで、今まで優しかったご夫妻の心がこうもたやすく変わろうなどとは、夢にも思いませんでした。私ども桐箪笥は、湿気を防ぎ、火にも強く、密閉度も高い、その上軽量でございます。そのように重宝極まりない私奴(わたくしめ)を……。

人というものは、表面のみを取り繕う生き物なのでしょうか。そしてその心は秋の空の如きに移ろいやすきもの。全くままなりませぬ。このように薄情とは、思いも寄りませんでした』と、さめざめと泣くのである。そして、再び大きな蛆虫が、ゴミ塊から躙(にじ)り出て、話を始めた。