「何で二千円均一なの?」って彩さんが聞いたら、
「細かくしたら、彩が会計、面倒くせえだろ」だって。
「そういう人だから、あの人は好かれるの」って彩さん言ってた。それに、鶏、豚、牛の畜舎まで元央さんと設計して、酪農家の育成コンサルタントにも行く。動物園からも救急で呼ばれる。いつも大きなリュック背負って、学生時代からの百二十五ccのスクーターで朱美さんを後ろに乗せていく。近場は電動自転車。車はめったに乗らない。二人は、いつでも一緒。
大型動物は無理だけど、救急で入院が必要な患者さんや移動手段がない患者さんのところには、ペットタクシーの真澄さんとご主人に連絡して連れてきてもらう。
久松にお昼ご飯に来た卵の道子さんは興奮して話す。
「もう、信じられない人。しかも論文も定期的に書いている、何とか時間作って勉強してる。お休みの日はもっとそうなんだろうな。
賞もたくさん貰ってる。北村さんと医薬、柳田さんとは建築関係とかペット商品も。それなのに貰った表彰状なんて、もういいんだ、って飾りもしないで、机の引き出しに入れたまま。
でも、朱美さんといつも笑って、なんかゆったりしてるんだな。休日はスクーターで二人でいろんなところに行くんだって。リュックに簡単な医療品入れて、会ったペットの飼い主さんに話しかけて、時々、診てあげるんだって。名刺渡して、良かったら今度診察に来てくださいね、って、まるで営業マン。自分で営業に出向く医者なんていないわ。
私たちの時間にも気を使ってくれて、みんなも余裕が出るの。だから、イライラしたり、喧嘩もない。そのくせ仕事はしっかりさせるの。獣医師試験受かったら、研修医として絶対戻ってくる。だってすぐに席が埋まっちゃいそうで。もっと勉強しなきゃ」って、大盛チャーハンかき込んでいる。
「おばちゃん、スープもう一杯、お願い」なんて言いながら、
「信二さん、まだ勉強してる。もう来ると思うけど、餃子ライスすぐ出せるようにしてやってて」
信二さんはもう一人の卵ちゃん。
「メグ先生に、おい、そこの戦友二人、って時々呼ばれて、まだおろおろしちゃって。そのたんびに、何驚いてんだ、ゆっくりでいいんだよ、って言ってくれるんだ」って信二さん、おじちゃん、おばちゃんに言ってた。
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