ファミレスで夕飯を済ませると二十三時頃クラブに到着した。クラブは足元からの振動に心臓も揺らされているかのようだ。荷物はショルダーバッグ一つにまとめていたのでロッカーに預けなかった。中に入ると真っ暗な道を恵は事もなげに進んで行く。私は置いていかれないようにあとを追った。
VIP席の目の前で立ち止まったと思うと、すでに座っていた男女数名のうち一際目立つ金髪の男がこちらに気づき話しかけてきた。
「恵! こっちこっち。隣は友達?」
「わたしの大学の友達の里奈。可愛いでしょ! みんな仲良くしてね!」
「俺、大輔! よろしく〜」
大輔が手を出してきたので私も手を出すと、力強く引っ張られるように握られた。
「わたしの彼氏の大輔。仲良くしてね」
「うん、よろしくお願いします」
小さくお辞儀をすると「礼儀正しいね」と大輔は手を離してくれた。正直なところ、こんな軽そうな男が恵の彼氏なんて恵はどうかしていると思ってしまった。
恵はまだ成人してないのにお酒を飲んでいるし……そう思ったところで未成年の私もクラブに入っているのだから、大学生なんてこんなものかと前言撤回だ。
さすがにアルコールを飲むのは気が引けて、誰かが頼んでいたウーロン茶が手を付けられていないのを見て、自分の手元に引き寄せた。
次回更新は4月25日(金)、21時の予定です。
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