「彼氏欲しくない?」
唐揚げを頬張る恵。
「ちょうど課題も終わって一段落ついたし、里奈も作ろうよ」
恵は背が高くすらっとしていて、目鼻立ちがはっきりした美人顔。会話の節々からは常に彼氏がいるようだった。男が放っておかないだろうと納得だ。今の彼氏は渋谷のクラブで働いているという。
東京に来てから目覚める度に、「ここはどこ」という錯覚をする。慣れないワンルームは寂しく、祐介が夢に出てくるたびに苦しさが増した。今の状況を変えるためにも、新しい出会いを求めることは良いことかもしれない。
「うん! 私も彼氏作りたい」
恵はまだ東京へ来たばかりの私を渋谷へ連れ出してくれた。
「ねえ里奈、彼氏がサービスしてくれるから友達つれて来なよって言ってるんだ。一緒に行かない?」
「それってクラブだよね? 行ってみたいけど、私こんな格好で大丈夫?」
「大丈夫だよ! 派手な子とか露出多い子も多いけど気にしないで」
田舎から出てきたばかりの私には渋谷のクラブは未知の世界であり、派手な格好をした男女が楽しんでいるイメージだ。場違いなのではと躊躇いもあったが、恵が一緒にいることで安心していた。
週末の渋谷は人で溢れかえっている。どこに向かうにしても人をかき分けて歩かなければならない。それすら私にとっては初体験であり、「ここが渋谷か」と高いビルを見上げながら辺りを見回してしまった。一気に気持ちが昂る。