美代子は「私もそう思う」と応じた。

「家族って大事だよね。子供がいて夫婦・子供の間に愛情があってこそ家族と呼べるのよね」

結衣は自分で納得したように一つの定義を語って一人合点していた。花帆が

「結衣の家庭は上手くいってるの? 確かご主人が食品卸関係の会社だったわね。年齢からして会社の中堅でしょう。会社での悩み事なんかを家に持ち込まない?」

「たまにお酒を飲んだ時なんか愚痴をこぼしているわね。でも、私は会社の職場のことは何も知らないから、いつも大変ね、で終わり」

「結衣ちゃん、冷たいわね」

「どうして、花帆は話をちゃんと聞いてやるの?」

「主人は保険会社の営業でしょう。特に法人相手だから夜のお付き合いがあるのよ。時々同僚を連れて武蔵小杉まで帰ってくることがある。そんな時は私も一杯だけお付き合いでテーブルをご一緒して話を聞くことはあるよ」

「花帆、偉いね。私なんかお酒の席はごめんだわ」

と美代子が言うと、結衣が

「うちは会社の同僚を家に連れてくることはないけど、主人の評判なんか知っておきたい気持ちもあるね。よくあることだけど、男の人が何人か集まると意外と会社の中の愚痴や職場の上下間を知ることが出来て参考になるかもね」

「サラリーマン社会で生き抜いていくことは大変ね。うちは個人事業主だから対人関係の複雑さは全くない。それも寂しいでしょうね」

と美代子は二人との違いを理解して自分の無関心さも気づかされた。