彼氏がいることは父に黙っていた。言えば何かと悪く言われるに違いないからだ。母から着信が来て、父が呼んでいるから家に帰るようにと促された。
祐介は「すぐに帰ってあげて」と不安げな私の姿が見えなくなるまで公園から見守っていた。
手は汗でびしょびしょになり、重い玄関の扉を開けてリビングに入ると、案の定、鬼のような形相をした父が待ち構えていた。
「いまどこで何をしていたんだ」
「公園にいただけ……」
「どこのどいつだ! 高校と名前を言いなさい!」
「言いたくない」
父の怒りは頂点へ達していた。
「こんな近所で何をしてる! 雌犬と雄犬がすることは一つなんだ! バカなやつと付き合うからお前までみっともないことするんだ!」
聞き捨てならなかった。これまで言われるがまま、言い返すこともせず耐えるばかりであったが、今回は黙っていられなかった。
「は? ふざけるな!」
これとないほど力強く父を睨む。父から放たれた言葉は一生忘れない。どの口が言えたものか。この男を自分の親だと思いたくないくらい軽蔑した。父は私が離婚の理由を知らないとでも思っているのだろうか。
睨み続けていると父の拳が素早く私の左頬に向かって飛んできた。咄嗟に避けたが耳の後ろあたりに命中してしまう。父は私の顔めがけて殴りかかってきた。
近所の目があるのに、近くの公園でイチャついている娘を恥だと怒ったのだ。父の怒鳴り声が原因で昔から親しくしていた近所の人たちから恐れられ、疎まれていたことは棚に上げている。