胸郭出口症候群の原因は「けん引」

胸郭出口(きょうかくでぐち)症候群(TОS)というのは、整形外科の中ではリウマチと相対するぐらい、訳の分からん病気だったんです。大学でTОSの研究を始めたときのこと。本に書いてあることと現実にはズレがあった。

それまでは「圧迫」が原因とされていたTОSの病態のほとんどは、頸(くび)(首)から手に行く腕神経叢(わんしんけいそう)への「けん引」が原因であることが分かった。訳が分からない病気は、医者には便利なツールだ。

不登校の子どもなんかにも「胸郭出口」なんて病名で逃げ道に使っていた時代もあった。でも私の研究で使えなくなり、今は「繊維性筋痛症」とか「慢性疲労症候群」なんていう、便利なゴミ箱病名が使われている。

現在、私はTОSの病名は破棄(はき)して、病態から「頸肩腕(けいけんわん)症候群」の診断名で治療をしているが、変な病名を付けられた患者の大半は、これで治せている。なお、今でもTОSの診断名で手術をしたり治療をしたりする人たちがいるが、根本的な病態が間違っているので、病名を変えるか、治療法を変えるべきです。