「もう何年になるっけ?」
「あんたが中学二年の時に始めたから……二十三年か」
「すごっ。よくやったね」
「本当。右も左も分からないところから優さんと二人でね。あんたと珠ちゃんにもよく手伝ってもらったね」
「俺のツレも皆年末年始はよくバイトしてたよね」
「そうそう。中には接客がひどくて帰される子もいたね」
懐かしい話に二人で笑い合う。ずずさんが三十九歳の時に優さんと設立した人材派遣業ソウアイスタッフ。いわゆるマネキン派遣業だ。スーパーで試食販売をするおばちゃんを思い浮かべてもらえたらいい。それがマネキンだ。
右も左も分からず始めたことが功を奏しソウアイスタッフが育成したマネキン達は停滞気味の業界内に新しい風を吹き込んだ。次々と大手メーカーと契約して会社は順調に成長し続けた。その存在は後のずずさんの人生を大きく変えていくことなるのだが創設に至るまでには僕が小学生になった頃まで遡る必要がある。
戸籍上の父を失った僕にはありがたいことに育ての父が二人いる。
一人は僕らを受け入れてくれた祖父。そしてもう一人がソウアイスタッフをずずさんと設立した優さん。この二人のおかげで僕は父がいないという環境をハンディキャップと思わずにやってこれた。眠れない日々のせいでやつれてしまったずずさんの笑顔の向こうに見える二人の背中を思い浮かべた。
「度々本当にすいません」
職員室でお母さんが先生に深くお辞儀をした。両方の鼻の穴に真っ赤なティッシュを詰め込んでいる僕の頭を押し付けて「あんたも」と怒気を含んだ声で言われた。