第一章 再起
《小詩(シャオシ)、天国で楽しく健やかにいることを祈っています。あなたのことを忘れることができません。
鞍山であなたの入っている納骨堂で祈りを捧げました。母亲(ムーチン)も一緒でした。母亲(ムーチン)の実家に二日間泊めて貰いました。母亲(ムーチン)と一つのベッドで寝ました。
昔、母亲(ムーチン)のお父さんが使っていたベッドだそうです。あなたと住んでいた家は、取り壊されていて、瓦礫の山になっていました。あなたの思い出の品物も何一つ残っていなかった。
母亲(ムーチン)、父亲(フーチン)、私とあなたが写っている写真を一枚、母亲(ムーチン)から預かりました。たった一枚の白黒の写真です。
大学時代の友達を見つけて、連絡先を聞いて電話し、住むところと仕事が決まったので、大連で住むことにしました。もう、鞍山に戻ることはないと思います。
あなたとは、もう会えないでしょう。楽しい思い出も少なかったので、あなたの分まで一人大連で生きていきます。良い思い出を作ってあげられなかったね。
楽しい思い出を作ってあげられなかったね。良い姐姐(ジィェジィェ)になってあげられなかったね。小詩(シャオシ)がなぜ生きていけなかったのか、私の罪の大きさに慄いています。》
真冬の夜の大連は零下二十度を記録していた。
翌日に帰国するにはあまりにも課題が多く、解決できないことはプロジェクトの成果を左右する状況となり、夕食は取引先の事務所で具材入り饅頭を頬張ることとなった。
夜七時になってから、電話で一緒に食事することができない旨、説明し、もう少ししてから電話するので、待っていてほしいとお願いし、今日、必ず会うことを約束した。
夜七時を過ぎると取引先の担当者の付き合い切れない態度が表れ出し、無理やり現状での検証試験を終え、日本側に明日の検証作業の手順をメールで指示し帰路に就いた。
車で送って頂いたが、車からホテルのロビーに入る間に身体は冷え切り、下車時の挨拶もそこそこに逃げるようにロビー横のエレベーターホールから開いていたエレベーターに駆け込んだ。
金曜日の夕刻にレストランで野菜の水餃子を注文した後に電話があり、再会を望んでいるが部屋にはいかないと固く決めていた気持ちが壊れていくことが辛かった。仁は謝りながらも気難しい雰囲気で、宿泊している香格里拉大酒店の部屋番号と帰宅予定時間を告げた。