11.EGAMI 小説記憶人
ラ・エンカと兄
海賊は笑いながら自分達の剣を抜き、三人の内の一人の海賊がチナンに向かって行くと、あっさりとチナンに首を切られ倒れる。残った二人の海賊は顔を見合わせ、肩に背負っていた意識のないアッカトを地面に降ろし、眼つきを変え、構えを替えた。
「ラ・エンカ走れ!」
チナンは、そう指示を出した。その直後、海賊の二人は同時にチナンに向かって行く、チナンは防御と攻撃を繰り返し、一人に胴体に深手の傷を負わせ倒すが、もう一人は浅い傷で、持っていた宝玉をチナンに投げつけ、それがチナンの手の甲に当った。チナンは剣を落とすと、駆け寄った海賊に腹部を切られ倒れる。
ラ・エンカは恐くずっと動けずにいたが思わず叫んだ。
「チナン!!」
ラ・エンカはチナンに使うなと禁止されていた火を手から出し、海賊に向け放った。
海賊は服に火が点くと驚いて、砂をかけて消しアッカトを肩に乗せるとその場を走り去って行き、雲海に停泊していた船へと乗り込んでいく。
「その子を置いていけ……」
チナンは這いながら叫んだ。ラ・エンカは走り海賊の後を追おうすると、チナンが止めた。海賊は既に船に乗り見えなくなっていた。
「あ、あんなに海岸には、行くなって……、言ってたのに……」
チナンは息を切らしながら駆け寄ったラ・エンカに言った。その目には涙が流れていた。そして彼女はラ・エンカの腕の中で動かなくなり、喋る事も怒る事も二度となかった。
ラ・エンカは、後から村人から聞いた話だったが、最近海賊が人をさらいに海岸に来ていて、それでチナンが警戒していた事を知った。
ラ・エンカは、歩いていると過去の悲しい思い出が頭を過っては消えていった。目から零れ落ちた涙を拭い、背中に背負ったあの時の剣を手に取ってかざした。
(あの時、海賊が来た時、光が兄に向け伸びていたように感じたが、実は兄が持っていた剣に玉が反応していた……? だとすると、この剣は何なんだ……?)
ラ・エンカは考えていると、数日前に剣が鞘の中で光っていたのを思い出した。