「田辺次郎です。これから、よろしく頼みますね」
おじいさまは嬉しそうに笑ってくれた。名古屋の豆腐業組合の偉い人らしい。
「次郎の妻のキヨです。よろしく」
おばあさまは、元気がないみたい。どこか体調でも悪いのかしら。
加代さんの旦那さんである徹男さんは、物静かな人。小さくお辞儀をしてくれた。子供さんは二人ともちょこんと頭を下げるだけだった。お兄さんが洋一君で弟さんが京二君。二人とも小学生。それにしても口数の少ない家族だ。秋田の実家は毎日騒がしかったからちょっぴり驚きだった。
「じゃあ、白石さんの歓迎会ということで乾杯しましょう。かんぱーい」奥さんが乾杯の音頭を取ってくれた。
「かんぱーい」
私はまだ十五歳なのでサイダーで乾杯したけれど、こんな贅沢品を飲むのは何回目だろう。甘くてシュワシュワして美味しかった。おじいさまと旦那さんはビールで、おばあさまと奥さんは梅酒を飲んで、洋一くんと京二くんはオレンジジュース。やっぱり田辺家はお金持ちみたいだ。飲んだこともない飲み物がいっぱいある。秋田では、お酒といえば日本酒ばかりだった。
お鍋からいい匂いがしてきて、すき焼きに似ているけれど、なんとなく違う。
「これは、名古屋名物の『ひきずり鍋』っていうの。お肉は鶏肉なんだけど、名古屋の人はこの鍋が大好きなの」
奥さんが教えてくれた。鶏肉なんだ。でもすごくいいお肉みたい。