日本人には、家に人の魂が宿ると考えている人が多い。そのせいか、前に住んでいた人が亡くなっているのか、生きているならどんな理由で引っ越したのかを気にする人がいる。住んでいた人が亡くなったマンションはそうしたスピリチュアルな世界観が影響するのか、次の買い手が見つかりにくい。

ここで、非常に少数ではあるが、反対の事例も紹介しておこう。事故物件を積極的に購入している人もいた。私が担当した方は、医療従事者であった。

毎日、人の生死に関わる仕事をしているせいなのか、誰がどのようにその家で亡くなったのかは一向に気にしていない様子であった。「人間はいつか死ぬんだし、何が気になるのかさっぱり分からない」と言っていた。

従来、事故物件には明確な定義がなかったが、2020年に国土交通省から「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が示された。

このガイドラインは不動産会社が仲介するに当たり、どこまで調査するべきなのか、どこまで告知すべきなのかを示したものである。マンションを売却しようとする人にとっても、このガイドラインの考え方が参考になるだろう。

なお、ガイドラインに登場する「特殊清掃」とは、ご遺体が腐敗し、体液などにより汚損された部屋を清掃することを指す。部屋内がゴミ屋敷と化している場合もある。ガスマスクのようなものを被り、ビニール製の服を着て部屋に入り、消毒液を散布し、汚物を処理する清掃を想像してもらえれば、どういう状況か分かるだろう。

この清掃を実施してくれる清掃会社は少なく、料金も通常の清掃よりも高額になる。特殊な状況下での清掃であるのだからそれも当然だろう。

ガイドラインの原文は非常に分かりにくいので簡単に解説しよう。

①マンションを売買しようとする場合

ア    自然死のときは買主に告げる必要がない

イ    特殊清掃が必要な孤立死が発生した場合には、期限なくその事実は買主に告げる必要がある

ウ    専有部分以外の隣接住戸や通常利用しない共用部分においては、特殊清掃がされていれば、   
   買主に告げる必要はない

②マンションを賃貸しようとする場合

・孤立死が発生しても3年が経過すれば借主に告げる必要はない

語尾に着目してみよう。告げる必要があるとされているのは①イのときだけである。つまり、孤立死が発生して特殊清掃が行われた部屋を売るときのみが無期限に事故物件として扱われることになるのである。ひとたび孤立死が発生すれば、遺族にとってその経済的損失は大変大きいものとなる。

私は、さまざまな団体から、高齢化をテーマにした講演の依頼を受けることがある。こうした場面で、孤立死に伴う異臭や特殊清掃の話をすると、気持ち悪い、気味が悪いと言う人も多い。露骨に顔をしかめる人もいる。

気持ち悪いと思う前に、その方の人生に少しだけ想いを馳せ、少しでも早く、人間としての尊厳が保たれているうちに発見してあげようではないか。早期発見につながる情報を持っているのは、あなたかもしれない。

【前回記事を読む】母の遺体は腐敗し、特殊清掃が必要な状態になっていた。申し訳ないことをしたと思う。でも、こんなマンションは相続したくない。

次回更新は1月30日(木)、8時の予定です。

 

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