「聞き分けて、来てくれるでしょうか。何を言ってもダメなんです」

「苦しければ苦しいほど、これが本当だということだけは聞こえているはずです。甘やかすとダメです。甘い言葉はウソですから」

「来てくれない場合はどうしたらよいでしょうか」

「それも含めてあなたや本人が選択した結果です。悩めばどうにかなることではありません」

特に厳しい口調で言ったわけではないが、事実を淡々と突きつけられ、実知は思わず息を飲んで、目を見張り、言葉もなく草介をまじまじと見た。

「一目見せていただければ、私に治せる病気かどうかすぐにわかります」

最近、みつる歯科にもぼつぼつ来院者が増えてきた不登校児童の特徴は、体形や顔形、症状などに明らかな共通性が認められる。

姿勢は猫背で、首が前方に倒れ、しかも左右的側弯が強い。右肩が低く、左肩が高く、首は左に傾き、左右の目は水平ではなく、左が著しく低い。顔面蒼白で艶がなく、生気が失せている。

肩や首が凝り、頭痛やふらつきがあって、無気力やウツ傾向が強い。血圧が低く、特に朝は症状がきつく、起きることさえできないのだ。

川瀬知数という今日来られなかった子供もこの特徴とそっくりのはずだ、と草介は思う。それにそうした子供の母親たちの態度もまるで同じだ。細やかで優しそうだが、取り乱して動揺するだけで、腰を据えた覚悟や理性的姿勢がない。

「心療内科に通われていたそうですが、佐倉先生の診療所ですか」

これだけは確認しておきたかった。佐倉は善良な全く普通の医師で、悪意はない人だが、草介のやり方に対して何かと疑問符のつくコメントが伝わってくる。善良な人物だけに反論すればマイナス効果しかなく、草介には不得意なタイプなのだ。

しかも佐倉の診療所はみつる歯科からも遠くなく、共通の患者も多い。特に不登校やウツ気味の子供たちの患者が重なっているのが気が重い。この重なった部分から疑問や否定的コメントが生まれ、いろいろな人たちに流布(るふ)されているのだ。

【前回の記事を読む】わずかな可能性を信じて来診した母親。アトピーに頭痛・腰痛に不妊まで。専門医でもない、新興宗教と勝手なレッテルを貼られた歯科医に相談が募るわけ。

次回更新は1月26日(日)、21時の予定です。

 

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