大学二年目、転機を迎える。曜子と出会ったのだ。私が所属するアイドル研究会というサークルに入部してきた。当然、彼女もアイドル好きで、いろいろと話をしているうちにおっとりとした性格に惹かれていった。
交際を申し込むにあたり「将来ハゲるかもしれない」と告げた。「気にしないよ、そんなこと」と曜子は微笑んで言った。この人しかいない、私はそう思った。人生で二番目に好きな人と結婚すると幸せになれる。これも本当だと思った。失業したときに妻は「そういうこともあるわ」と前向きでいてくれたからだ。
「パパ、何してるの?」
背後から不意に妻の声がした。手紙を持つ手がビクッと震える。振り返ると、曜子が階段を下りたところだった。私は手紙を後ろに隠し持ち、「別に」と何事もなかったかのような平然とした顔をする。遅れて、娘の芽衣も二階から下りてきた。
「ちょっと休憩。喉乾いた」
と言って、芽衣は冷蔵庫から麦茶を取り出して二つのコップに注ぎ、ひとつを曜子に渡した。
早いもので七月になった。引っ越してきてから三ヵ月が過ぎた。その間、一階の掃除に追われた。亡き父は片づけが苦手で散らかっていてもなんとも思わない人だったので、家のいたるところにクエスチョンマークな小物が乱雑に放置されていた。たまの帰省では見過ごすことはできても、ここを安住の地に選んだ以上は我慢ならなかった。
家族全員マイペースなところがあり、一階の整理整頓を完了させるだけで二ヵ月以上かかった。二階にはたくさんの柳行李(やなぎごうり)が足の踏み場もないほどに置かれていて、住居というより物置と化していた。
また二ヵ月かかると思うとげんなりするが、それも覚悟の上だ。隣家からクレームがこないよう、この古びた家を綺麗にしなくてはならない。リフォーム費用の捻出(ねんしゅつ)ができないだけに。
曜子は麦茶を飲み終えると、「何コソコソ見てるの?」と珍しく険しい目つきになった。
「こっちにきてからずっと。しかも金庫にしまって」