第二話 あなたに会えて幸せだった ~緑谷光司の巻~

1

ある意味、賭(か)けだった。【名古屋のピョンピョン】の本名がうさこという確証はなかったからだ。根拠はないが私には自信があった。手紙の文面から、彼女が真面目な性格で正直者に違いないと思われたからである。

とはいえ、やっぱり不安だった。果たして近所付き合いはあるのだろうか、と。この一帯は私の故郷と違って都会だからだ。不安は当たり思うように調査は進まない。そんな中、髪を紫色に染めたおばちゃんから貴重な情報を入手した。【名古屋のピョンピョン】と思われる女性の名前がついに判明したのである。

佐藤宇沙子。二十三歳。

読みはズバリ的中。当時、私は十八歳。五歳年上ということも同じだ。おばちゃんによると、佐藤一家は十年ほど前に東京から移り住んできて、両親は近所付き合いが悪いというか、祭りや縁日といった地元の行事に顔を出さない人だったらしい。そういう家庭の方針だからなのか「子供たちもイベント事に参加しなかっただぎゃ」と答えた。

ちなみに、佐藤宇沙子については、何回か見かけたことがある程度。年齢を知っているのはおばちゃんの孫と同じ学校に通う同級生だから。もっとも孫は佐藤宇沙子と親しかったわけではなく、それ以上の情報は皆無だった。そして、理由は不明だが、半年前に佐藤家はひっそりと引っ越したそうだ。

半年前といえば、大学の合格発表の日。なんと運が悪いのか。初恋は実らないというのは本当かも。私はそう思った。ショックはことのほか大きく、この日を境に抜け毛が増えていった。