焼き海苔缶の箱のままだと勝手に見られる恐れがあったので、私は安物だが急ぎ手提げ金庫を購入した。曜子には「それ、親父の」と嘘をついたが、バレていたとは。だが、手紙の内容まではバレていないようである。嘘を突き通すか。

「ひとつ忠告しとく」

表情だけでなく口調もいつになくきつい。

「わたし、怒ったら何するかわからないから」

自慢じゃないが、夫婦喧嘩は一度もない。それだけに、妻がブチ切れたらどういう行動に出るのか想像がつかない。私はこめかみを掻いた。

「わたしも忠告しとく」

芽衣が妻の口調を真似る。「ママを悲しませたら、わたしも何するかわからないから」私は首を捻った。

曜子が怒る? 悲しむ? 一体どっち? 意味がわからない。

それはさておき、芽衣も妻に同調するなんて、またかよ!と思う。実は芽衣は、特別養子縁組で赤ちゃんのときに迎えた女の子だ。婦人科系のガンのために子宮と卵巣を摘出した曜子にとって、芽衣は何ものにも代えがたい存在なのだろう。

芽衣に初めて会ったとき、彼女は小さなうさぎのぬいぐるみを抱き、すやすやと眠っていた。施設の職員に聞いたところ、捨てられた母親から授かった唯一のものだという。曜子は運命めいたものを感じたのか、

「亡くなった宇沙子お姉ちゃんの生まれ変わりに違いない」

そう言って、目を輝かせた。私は芽衣を養子に迎えることに異論はなかった。

  

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