それは、私が20歳の誕生日を迎えた日。
当日の朝、実家に一樹から赤い薔薇の花束が届いた。
それだけでも、一樹らしいなと思った。
薔薇の花束なんて、キザでロマンチストな人だなと誰もが思うだろう。
薔薇の本数を数えてみると、なぜか19本だった。
〈なぜ一本足りない?〉と疑問に思いながらも、その時の私はめずらしくこの一樹のサプライズの内容に気づかなかった。
誕生日は、特別な場所へ出掛けることは特にせず、普段と何も変わらない、楽しい時間を過ごした。
ただその日の夜、成人した記念にお酒を飲みに居酒屋さんへ。
乾杯して夕食を食べていた時、突然鞄からそっと一輪の薔薇を私に差し出してきた。「最後の一本はこれだよ」と。
その20本目の薔薇は、生花ではなくドライフラワーの枯れない赤い薔薇だった。私が驚いて喜んでいると「次は30歳の時だね」と、確かに彼はそう言った。
でも、それからはいろんなことがありすぎたし、息子が生まれ間もない頃で、私はいつの間にかその言葉さえ忘れていた。
そして迎えた、30歳の誕生日。
家族でお花見に、お弁当を作って公園へ行き、帰りにケーキを買い自宅では息子と一緒にいつも通りの日常を送り誕生日の日を終えようとしていた時。
突然インターホンが鳴った。