アルゴス

第二章 日常から

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温泉の一戸建ての部屋から貴之に連れられて逃げる。

創は足が遅い。体力が続かないのだ。

瑞希は創の手を引っ張って駆けていく。

坂を下った先には漁村があった。家のドアを勢いよく叩く。

貴之「野口さん。野口さん」

ドアが開いた。

貴之「この子を逃がしてくれ。奇跡の子だ」

「……そうか、この子が。わかった。だが条件がある」

茜「その条件は何?」

「俺の子にも血の提供を頼む。この子も福島の子だ」

案内された先には鼻にチューブを刺された子供がいた。

この子供も感染症に弱いのだろうか?

茜「創、いいわね?」

創は腕を差し出して注射針を受け入れた。

漁船の男は野口真之と名乗った。子供は敏というらしい。

「急いで漁船に乗り込め」

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漁船の前で貴之は、「わしは顔が知られた。瑞希を連れてあとを頼む」と言う。

野口真之「わかった。任せろ」

慣れる前に交代しこの人たちは創を守ろうとする。

夜明け前に敏が目を覚ました。長い眠りで髪を伸ばした先から見えた目はうつろだった、

真之が「おお、目が覚めたか、お前が昏睡状態になってからだからな。お前1週間寝たきりだったんだぞ」と言う。

創は涙を見せ我が子を抱き寄せる真之を見て自分の価値を考える。

創「僕は何者なの? 僕は本当に母さんの子供なの?」

漁船は5人居れば狭い。なおかつ今の季節は寒い。

茜「創。……あなたはアルゴス・ウイルスを故意に感染させてなおかつ免疫を持った唯一の成功のサンプルよ」