【感想】

2020年に新型コロナウイルスの感染者が発生して以来、現在(2021年4月)、日本は、感染者47万3211人、死者9140人のパンデミックの渦中にある。本書のウイルスの感染につながる描写が、全世界で蔓延している新型コロナウイルスによるパンデミックと全く重なることに驚く。本書が「予言小説」あるいは「警告小説」と呼ばれる所以がよく理解できる。

『H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ』/岡田晴恵/幻冬舎(2009年6月発行)

【作品概要】

感染症研究所の研究員で感染症の専門家である岡田氏が強毒性インフルエンザウイルスが日本で蔓延した事態を想定して描いた小説。

1997年12月15日、国立感染症研究所の太田信之ウイルス長が、WHOの事務局長マーガレット・チャンから「強毒の鳥インフルエンザが26名のヒトに感染し6名が死亡した」との国際電話を受けた。

序章 火種

1997年5月、香港で3歳の男の子が死亡し検査の結果、H5N1型鳥インフルエンザウイルスに感染していたことが判明した。

第1章 苦悩

大阪府内にある市立病院の副院長・沢田弘は、感染症内科の専門医である。その病院は感染症指定医療機関に指定されている。現在、世界では、特に東南アジアではH5N1型鳥ウイルスのヒトへの感染が続いている。

沢田は、このウイルスが日本で蔓延した場合どう対応するのか不安感と危機感がよぎる中、卒業した大学医学部の同窓生との連携を模索しはじめる。

第2章 焦燥

福岡空港の検疫官・溝腰健治は、H5N1ウイルス同定のためのPCR講習会を受けてから、新型ウイルスの脅威を身にしみて感じるようになった。新型ウイルスの情報を積極的に集める中で、日本は外国に較べてその情報の少ないことに気づく。

インフルエンザ感染者は、発症1日前からウイルスを排出するので空港での水際対策でウイルスの侵入を防ぐことは困難であることを知る。

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