第二章 小窓尾根

テントの中でブーツを履いた。この先はすぐにピラミッド状岩壁の難所が待っているのでハーネスを装着し、カラビナやスリングなどの登攀用具も身につけてテントから這い出した。すると、すぐ上でテントを張っていた昨日のパーティーが一足早くテントを片付け出発するところであった。

川田らがヘッドランプを頼りにテントを片付け始めると、ザクザクと音を立てながら、その二人パーティーが脇を掠めて行った。昨日スコップを借りにきた若い方が「おはようございます」と挨拶をしてきたので、川田は「どうも。早いですね」と挨拶を返したが、鬼島は一瞥もくれず、もくもくとテントを畳みにかかっていた。

三日目ともなると、テントにはうっすらと氷が纏わりついて畳みにくくなっており、テントケースに入れる際に難儀した。

いつものように「さて行くか」と鬼島に促されて歩き出す。朝一番は身体の動きが鈍いが、このような悪天ではさらに足取りも重かった。ドームの次に聳える難所はピラミッド状岩壁であった。ピラミッド状岩壁から「マッチ箱」と呼ばれる岩塔群までの険しい岩稜帯の通過が、この小窓尾根の核心部と言える。

テントを張ったドームのピークから下り終えると、ピラミッド状岩壁が目の前に現れる。吹雪で一面に氷化した岩壁は、黎明の淡い光の中で不気味に立ちはだかっていた。

ピラミッド状岩壁の基部では、先行パーティーの若者がいた。その若者は、リードで岩壁に取りついているもう一人のクライマーから伸びるロープを確保器に通してビレイをしていた。そのリードクライマーは、ピラミッド状岩壁を直上しようとしており、十五メートルほど登ったところで難儀していた。