この季節の雪はサラサラと軽く、コッフェル一杯に雪を詰めても溶かせば容積にして四分の一程度の水しかできない。コッフェルの中で雪が解け始めると、さらに雪を足すという作業を何度か繰り返した。

くべるための雪は、昨晩のうちに大きなビニール袋に掻き集めてテントの入口に置いてあるので外に出る必要はないが、そのビニール袋の中の雪をすくい出すためにテントの入口を開けると、外の凍てついた空気がそのたびにテントに入り気温が下がる。沸かしている最中のぬるま湯から発した水蒸気は、入り込んだ冷気によって急激に冷やされ、一気に白い靄(もや)となってテント内を漂った。

湯が沸くと、フリーズドライの味噌汁を二人分コッフェルの中に入れ、昨晩のうちに水を入れて戻しておいた二食分のアルファ米をその中にぶち込み、おじやを作った。食事中もさらに雪を溶かして湯を作り、鬼島と川田のサーモスを満タンにした。この湯が行動中に取れる唯一の水分となる。

ただの水筒に水を入れても、厳冬の山ではすぐに凍ってしまう。一旦凍ったら最後、下山するまで溶けることはなく、そうなっても捨てるわけにもいかないのでザックの重量を増すだけの代物になってしまう。サーモスは湯の温度を保つだけでなく、すべてが凍りつく厳冬期の山で、生きるために必要な水分を水のまま保存しておくための大切な道具だった。

食事を終えると、鬼島が外の様子を見るためにテントの入口から顔を出して辺りを眺め、「行けるな」と言った。

弱いとは言え吹雪なので、五時の気象通報はテントの中で聞くこととした。昨朝の予報に比べると、寒気は予想より少し早く日本列島に近づいていた。