第一章 再現美容師の仕事

研ぎ澄まされたサロンワーク

くせ毛の方が多いこの世の中、癖の出方も様々で、左右対称などあり得ない。

骨格も耳の高さ、髪の毛の生えている所のスタートラインも違うし、裾の一番しっかりした部所は多毛であったり、右側だけがより多毛だったり……。ひとりの人の頭部の中でこんな感じがあたりまえ。

更に、脱毛している部分の大きさも違うし、脱毛後うっすらと綺麗な産毛が生えてきている部分もある。

その全てを見極めて、ヘアをデザインに落とす。

普通のシザー(ハサミ)、根本の刃が太めで刃先は鋭く尖っていないシザー、セニングシザー(すきバサミ)、逆セニングシザー、レザー(カミソリ)、箇所により使う武器は様々で、目で見て鏡を通して見て使い分ける武器のチェンジ捌き、時として慌ただしくチェンジする。

コームも色んな種類を持っていてその都度使い分ける。ウェットカット(髪の毛が濡れている状態で切ること)の場合と、ドライカット(髪の毛が乾いている状態で切ること)の場合と……。

この日ご来店されたM様は過去最大級に疲れ果てていた。

ご希望のスタイル、カラーの色味、ヘッドスパで使用するアロマオイルの選択とシャンプー剤の選択、そしてハンドマッサージのクリームの選択、アロマの音楽の音量、照明の選択。アロマの岩石は、熱湯にしっかり浸けてから水分を拭き取り、薄い布の巾着に入れてホットボックスの中に準備している。

置く場所の一つはおへその下の丹田のツボへ、もう一つはお客様のお好きな所へ。

今回特に疲れている身体の部分も聞き込む。体調の良い方は、施術しながら聞き込んでいるが、体調の優れない方は最初に一気に聞き込んで、2時間半の時間は、ほとんど会話は避けている。