【前回記事を読む】抗がん剤による脱毛後でも、自分らしい美しさを。闘病生活を前向きに変える希望の医療ウィッグボブスタイル!

第一章 再現美容師の仕事

弓道前に

「これは辛かったね」

目を瞑ってる、目の前の大切なお客様。首、肩、背中をマッサージしてたら……

「すみません、ほんとうにありがとうございました。迷惑かけました。帰りますね」

「お家まで送迎しようか?」「遠くなるからいいですよ、車酔いもするから。いいです。大丈夫です」

吠えるゆずちゃんのリードを持ち見送りましたが、帰られた後、ひとり、考えていた。

わたしが伝えていた事は、救うどころか、苦しめてしまったんかな。考え方、捉え方がわたしとは正反対だったから……。

なんか知らんけど……涙が出てきて、目の前のゆずちゃんに手を伸ばして、

「ゆっちゃん、お母さん、何やってんねんろな。美容師だけやのに」

過去、娘が抜毛症で、カウンセリングに来てもらいたいと、ご主人様からのご依頼で自宅に伺いました。奥様は入院中で、依頼くださったご主人様から、奥様との現状経緯を伝えてもらった時に、娘さんが犠牲になっていたんだなと感じました。

家庭内の問題。その話をご主人様の一方的な話を聞いて、まだ幼い娘さんにわたしはどのように伝え接するべきなのか悩みましたけど、幼い娘さんはものすごく苛々していて、色んな事がごちゃごちゃになったんでしょう。しかも目の前には見た事ない女の人……。

帰れ!!とキックされましたけど、その時のわたしは、何も言えずに帰りました。

その時の事を思い出しました。今やったら、そのキックした足を押さえ込んで、反撃の愛を捧げてるやろうなぁ……とニヤけた(笑)。

あの子、もううちの亜未ちゃんと同じくらいになってはるやろうなぁ。出張帰りの車運転しながら涙流して、早くお家におるわが子の顔を見たかった。

こんな無駄な時間あったら自分の子と遊ぶわ……。何しに福岡に来たんやろ。もー嫌、ウィッグ製作どころか、カウンセリングばかりや……」

そんな事考えてましたね。

 

でも、継続していたから、笑顔、たくさんサプライズ貰えたし、これで良かった。弓道行こ!! 又遅刻やけど。ゆっちゃん少しだけ待っててな。

その日の弓道は、全く身体が力まず、弓を引く時にものすごく軽く感じたのに、矢の射った後の巻藁の音がバシーーンって、すごくて。

後で弓を立てて左手で持ち、巻藁(2メートルくらいのところに置く藁を束にした稽古用具)に刺さっている矢を根本から拳で一握りして抜いて、もう一握り、抜き……。

最近は3回抜くという事は、深さ35センチから40センチ、巻藁に突き刺さってるとなると、的までの28メートル……到達できてる距離なんやろかなぁ。

指導者の先生も、「それでいいです! 身体で覚えていきましょう」と同じ事を繰り返して……。

無になれる事は、やはり今のわたしには必要なんだ、と確信したお稽古だった。

その後に、色んな珍事件に巻き込まれるやなんてひとつも考えてなかったのに(笑)。

それも、必然。色んな事を色んな場面で楽しまんと損するな。