戻った苦痛に歯を軋ませ頑なな瞼をこじ開け布団を剥ぐ。はあはあと、寝ていたのに荒い息に肩が動く。布団から露出した裸に冷気が触れ、肩をすくめ震える。何だ? どこだここは? 凍てついた雪山の氷壁か? 早く脱出しなくては。いや、でも何で冬山に裸でいるんだ?
ウェアはどこだ? と辺りを見回すと薄暗の中で饐(す)えくたびれた布団が見える。自分は布団の上にいる。そうだ、ここは自宅の部屋のはずだと、寝ぼけからだんだんと覚醒していくと、状況も判明していく。
そうか、夢か、と気づいた途端、緊張が一気に緩み、大きく息を吐く。大量の寝汗がこめかみから首筋に流れ冷気が裸を舐める。閉じたカーテンからこぼれる薄日の中で、濡れた胸毛がべったりと貼りついている。腹毛も濡れ、ずれたパンツも濡れ、はみ出した陰毛も滴り肌に纏わりついている。まだ暑い季節でもなく、裸の胸や腕に鳥肌が隆起してくる。
床に入る時には着ていたはずの寝間着を手を伸ばして探ると、右手の先に丸まったトレーナーが当たる。
まただ、あの遭難事故以来、こんなことが続いている。同じような夢と、その夢に苦しみもがく浅い眠り。また深く息を吐いて、頭を掻く。いくら掻きむしっても頭皮の快感が足りないので、手を広げるとやはり、三本の指はない。左手を広げてみても、二本ない。拳にして力を込めてもやはり締まる感覚はない。
足の指はどうかと力を入れてみるが、やはり指はない。当然、指が広がる感覚はなく、薄暗い布団の上で丸まった足先がモゾモゾともがくだけ。目を凝らすと、それは象の足のように丸く、やや腫れた肌が何かの拍子ですぐに破れそう。
結局、凍傷の切断面だけ、夢ではない。
起き上がろうと足を折り尻をずらすと、パンツがさらにずれる。露わになった男根は、そこまでテラテラと汗で濡れ、グロテスクにだらんとしている。あの遭難事故をくらう前は、どんな朝でもこんなにだらしなくはなかった。また溜息をついてパンツをずり上げ、風呂場に向かう。
次回更新は12月25日(水)、8時の予定です。
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