僕の大学デビュー天下取り物語
よく考えれば、あの竹下君より強い谷岡さんといつもスパーリングしてるのだ。そして試合といっても、アマチュアの試合はヘッドギアもついてるため、環境的にはスパーリングとほとんど変わらない。気持ちさえしっかり持てば、大抵の相手にはビビらずに臨めるのだ。
他のジムとの対外試合では負けたりもしたが、一回目の試合のようにただガードを固めて逃げ回るだけみたいな負け方はしなくなった。どんな相手でも、とりあえず勇気を持って手を出すことはできるようになった。
こうして自信を少しずつ取り戻しながら、ボクシングを始めて二年。入会希望で来るイカついヤンキーにも、ジャブだけでスパーリングの相手をできるくらいの余裕ができた頃、僕はもう金髪坊主に勝てるのではないかと思うようになった。
正直これだけボクシングを現役でやってて、もう随分前から素人には負ける気はしなかったが、金髪坊主は別だ。
一度命の危機を感じるくらいにボコボコにされた過去がある。もし金髪坊主を前にしたら、初試合のときのように足がすくんでしまう可能性もある。
ただ、それを差し引いてもあまり負ける気はしなかった。もう以前とは違い僕の体はベンチプレスで九十七キロを上げれるくらいはゴツくなってたし、なにより二年間も本気でボクシングに打ち込んだ経験がある。
大丈夫だ、多分勝てる。
金髪坊主にはまたいきなり喧嘩を売りに行くとして、問題は金髪坊主の仲間だ。またあの暴走族の仲間をたくさん連れてきた場合、さすがに多人数に勝てる気はしない。絶対タイマンに持ち込まないといけない。
おそらく挑発したらタイマンは受けてくれるはずと思うが、金髪坊主を倒した後、仲間が仕返しをしてきたらどうしよう。暴走族に狙われることになるかもしれない。
そのときは悔しいけど、谷岡さんに頼むか。谷岡さんはもう五十歳前だが、精神年齢は中学二年生で止まってる。いまだに街中で調子乗ったヤツをシバいた話をしてるし、常に喧嘩相手を探してる。頭を下げれば協力はしてくれるはずだ。
まあ、今後のことはいい。とりあえず僕は金髪坊主をぶっ倒す。できれば隆志の前で。あのとき、ダサいと言ってきた隆志に本物になった姿を見せたい。
ただ、そこまで考えて僕の足はなかなかリベンジに向かえなかった。ビビッてるとか先のことを考えてるとかではなく、そもそも根本的に僕の中で囂囂と燃え続けていた復讐の炎が、明らかに弱くなってたのだ。
その理由は明白だ。彼女である満里奈の存在だった。半年前にできた自慢の彼女、満里奈。彼女と一緒に過ごしていたら、僕はそんな復讐とか本物の男になりたいだとかが、どうでもよくなっているときもあったのだ。
ああ、そうだ。すっかり女の子の話をするのを忘れていた。僕の大好きな映画、窪塚洋介主演の「GO」のセリフを借りるならば、この大学デビュー天下取り物語は、僕の恋愛に関する物語でもあるのに。