俳句・短歌 歌仙 2020.08.16 歌集「ひとり歌仙」より三首 ひとり歌仙 【第3回】 田中 靖三 “気がつけば超電導の虜なり” ――科学と日常を結びつける新しい文芸の形。 電気抵抗ゼロで世界に革新をもたらす夢の科学技術「超電導」。日々刻々と新しい技術に取って代わられる科学の世界において、人の寿命にも伍する100年以上の歴史を刻む「超電導」を、「5・7・5」の長句、「7・7」の短句を詠み重ねる歌仙方式で花鳥風月を織り交ぜ、詠いあげる。科学叡智の結晶「超電導」は、歌仙の響きと共にやさしく世界に溶けていく。 松尾芭蕉が作り上げたと言われるこの型式の、独吟による「ひとり歌仙」を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 静かさや洋々海の初明かり ほの凍て雲のいよいよ赤む 春の野を携帯とればボスなりて 今年も摘まむ萌ゆる早蕨 太平の夢叶ふるや朧月 謎は科学に託すに然り
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『宮本武蔵と忍びの者』 【第7回】 石崎 翔輝 くノ一は必ず女として男を籠絡する技を身につける。仲のいい娘が、老忍たちを相手に仕込まれる姿を見てきた。 いま薬華庵の小者たちは、甲賀の里の望月家との連絡に当たっていた。太一 (たいち)、十蔵 (じゅうぞう)、初音(はつね)といった十代の半ばを過ぎた歳の甲賀の忍びである。甲賀は、織田信長が本能寺で明智光秀の謀反で落命した後、豊臣秀吉に従ったが、天正十三年(一五八五)に雑賀(さいか)の太田城の水攻めの際、堤工事の不具合を口実に甲賀武士の家は改易処分された。そして秀吉は水口(みなくち)岡山に城を築き、中…