僕の大学デビュー天下取り物語

僕はこの大会で完全に自信をなくした。

本物になるため、金髪坊主にリベンジするために始めたボクシングも上手くいかず、僕はこの先どうしたらいいか分からなくなっていた。

なぜあんなにもビビってしまったんだろう。なぜもっと死ぬ気で殴り合わなかったのだろう。寝ても起きてもそのことばかり考えてしまう。自分がビビリで器の小さい人間だってことを、こうもハッキリと突きつけられて、僕は完全に絶望していた。

ジムには通った。このままジムに行かなかったら、それこそ試合に負けて逃げ出したみたいになってしまうので、別に何も気にしてませんよという感じを出しながら、いつも通りに通った。ただ完全に気力はそがれていた。

谷岡さんはビビってたことを毎日のようにニヤニヤしながらイジってくるし、会長は明らかに失望してるし、竹下君はどこか僕に気を遣っていた。もうジムの中に居場所はなかった。

あれだけやらされていたスパーリングも、もうやれとは言われなくなった。与えられたメニューだけを一、二時間でこなして、早々と帰宅する、ただジムに通ってるだけの状態だった。

自信を完膚なきまでに失った僕に金髪坊主へのリベンジのことなんか、もう頭になかった。かと言って今更全てを諦めて、完全に逃げるという決断力もなかったのだ。

惰性で通っていると、次第にジムへ行く回数も減り、週に四、五日行っていたジムも週に二、三日のペースになった。

そして、そんなときだった。竹下君がボクシングジムを辞めた。

大学のゼミでテレビもないような村に泊りで研修に行くことになり、僕は二週間ほどボクシングジムを休んでいた。久しぶりにジムへ行くと、ジムの名簿から竹下君の名前が消えてたのだ。

「会長、竹下君は?」

「ああ、辞めたよ」

会長はいつも通り忍者になる修行の一環であるだろう、座禅を組みながらそう答えた。

「なんでですか? 受験は来年のはずじゃ?」

「詳しい理由はわからん。事情があって辞めますって電話があっただけやから」

「マジすか……」

「きっと、オレがこの前ボコボコにしたからやな」

サンドバックを一通り蹴り終えた谷岡さんが、ニヤニヤしながら話に入ってきた。

「え?」

「この前、スパーリングしてさ。オレもつい熱が入ってマジになっちゃって。結構ボコボコにしちゃったんよな」

谷岡さんは元プロのボクシング歴三十年。

さすがに竹下君が天才だと言っても、本気を出した谷岡さんには勝てまい。

「だから逃げたんよ、あいつも」

そう言うと、谷岡さんはまたサンドバッグを蹴り始めた。

僕はなぜかとても悔しかった。あの竹下君がそんな風に言われたことに。自分がビビリだと馬鹿にされた以上に腹が立った。