第一章 新たな訪問者
カトマンザ
狢はすがすがしい気分で黄色いレザー張りの理容椅子(バーバーチェア)に腰掛けていた。朝のラブドームでブラシを持ったMr.荻の手が魔法のように動いて狢のアイボリーの毛を整えてくれたのだ。その時少し離れて憂いを帯びた表情のカナデが揺れるユッカの前の揺り椅子に座っていた。
「狢ってたぬき?」
「パンダに見えるかい?」
狢に悪気はなかったがカナデは黙り込む。
「たぬきにしてはめずらしい毛色だよね」 Mr.荻が空気を和らげるように言う。ムッとしているカナデの見事な金髪を雪花菜ばあやがもうちゃんと頭の上で束にしていた。
緑のカンファタブリィの広間に戻るとラッキーはこざっぱりとしてハンモックの上で宙吊りの歌を口ずさんでおり、ベイビーフィールはおぼつかない手つきでベイビードールの世話をしていた。
おいしそうな香りが漂ってきてヨーラがしなやかに形を整えると、ナンシーがキッチンから運んできた温かいスープを配る。狢、カナデ、ラッキー、最後にベイビーフィールがちょこんと座るとヨーラが待ってましたとばかりにそこにもテーブルを広げる。
「さあベイビーフィール、これはあなたの分、味付け(テイスト)はうっとり(ラブストラック)よ」
それを聞いてうっとりする狢。そして最後にナンシーはスープを持ってカプリスの闇へと入っていく。
§
「カプリス、いますか?」
狢は暗闇に目を凝らした。
「ここにいるよ」
「変だな、あなたがいないような気がするなんて」
狢はナンシーがスープを届けた時、カプリスの返事がないと言っていたのが気になっていたのだ。
「実は亜美を探していたんだ」
「亜美ってあの、すずらんの原っぱにいた女の子?」
「うん、彼女を取り巻く情景(シーン)は追跡(フォロー)できたんだが、どうやらそこに何かいるようなんだ」
「何かって?」
「記憶の闇の中に邪悪な気配を感じる」
「邪悪な気配?」
「どうにかしてそこから彼女を連れ出したいんだが」
「何か方法はないの?」
狢のまん丸い二つの目は闇の一点に向けられていた。
「あるいは……」
とカプリスは言った。
「狢、君なら助け出せるかもしれない」