僕の大学デビュー天下取り物語
あの日の喧嘩の前に感じてた「クローズZEROを見たおかげでなんか高く跳べる気がする感」も、現実を知ったせいか微塵も感じていなかった。
あっと言う間に開始のコングがなり、相手がすごい勢いで襲いかかってきた。
きた! 始まった!
すぐに迎え討とうとしたが、体が動かない。緊張、恐怖。逃げようにもカウンターを出そうにも、手も足も動かないのだ。
ボグッ!
スパーリングでは貰わないような大振りのパンチをいきなり貰った。
重い衝撃。広がる鉄の匂い。
手を出せ! 反撃だ!
必死に脳に喝を入れて、無我夢中で拳を繰り出す。
一年ちょっと血をにじませながら、練習してきた僕の右ストレート……
それは、猛攻してきてる相手の顔の近くをサスッとかすめた。
当たり前だ。焦りからか基本の形も崩れた、練習してきたとは思えない不格好なパンチだ。そんなものが当たるわけもない。金髪坊主に反撃を繰り出して、顔にペチンとなったあのときとほとんど変わってない。ペチンから、サスッになっただけだ。
相手のパンチが再び僕の顔面を捉え、そこからの僕はただ亀のように守りを固めて、嵐が過ぎ去るのを待つだけだった。
ろくに反撃もできず、ただダメージを蓄積して、しまいにはレフェリーにスタンディングダウンという、立ったままダウンという聞いたこともないダウンを取られ、僕はあっけなく負けた。
リングから降りるときは誰の顔も見れなかった。客席にいた谷岡さんがニヤニヤしながら「ビビっとるやんけ」と言ってきたのだけは覚えてる。
僕の一年は完全に打ち砕かれた。何も変われなかった。自分という人間の小ささと無力さに、すぐにでも泣きそうだった。
「お疲れ様です」
会場の外で座り込み、涙を堪えてると竹下君が話しかけてきた。
あまりの恥ずかしさに逃げ出したかったが、僕は無理に笑顔を作って「ボロ負けだよ」と言った。
「まあ、ちょっと緊張してたっすね」
竹下君は気まずそうにそう言った。こんな僕をバカにして笑わない時点で、竹下君は本当に良いヤツだ。