僕の大学デビュー天下取り物語
ただ、ここは逃げるわけにはいかない。僕はグローブもヘッドギアもない、何でもありの喧嘩で、金髪坊主に勝つためにボクシングを始めたのだ。ルールに守られた大会でビビってるようではダメだ。
「ありがとうございます! もちろん出ます」
僕は鼻血を拭って意気込んだ。そこから大会まで、僕はロッキーばりに練習した。少しでも体を大きくするために筋トレもして、ご飯も吐くほど食べた。
対戦カードが載ってあるパンフレットが届いた。僕の対戦相手は、高校生だった。しかし、プロ。K―1甲子園ベスト8にもなったことがあるらしい。
ファイティングポーズを取りカメラを睨んでいる写真の横にキャッチコピーが載っている。
「消える左ストレート」
それが相手のキャッチコピーだ。
僕のキャッチコピーを見ると、「宮崎大学の大学生」と書いてあり、写真も僕だけ正面から真顔で撮った証明写真みたいなのが使われていた。
完全に履歴書だった。
そういえばこの前、会長に一枚、ガラケーで写真を撮られたような気がする。谷岡さんがパンフレットを見てる僕の肩をポンッと叩き、「ナメられんなよ」と言ってきた。
この写真でどうやってナメられないことができるのだろう。
「山本みたいに醜態をさらすなよ」
「山本さん?」
医学部プロボクサーの山本さんの名前が突然出てきた。
「そう、あいつこの前の大会でビビって、ずっとガードばっかりしとってよ。あんなヘッポコ見たことないけん。プロとは思えねー」
谷岡さんが言うと、会長も笑う。そういえば最近、山本さんの姿を見ていない。おそらく、前の大会でよくない姿を見せて、ジムに来にくくなったのだろう。山本さんは一応プロだ。そのプロでも恐怖に負けてしまうことがあるのだ。
「実力的にはお前はもう山本くらいあるからよ、あとはビビんないかどうかやな」
宮崎はプロになるハードルが低いとはいえ、実力的にはプロと同じくらいと言われたことで、僕は少し自信になった。
「ビビんないっす。こんなところでビビってるわけにはいかないんで」
僕が強くなって金髪坊主にリベンジしたいというのは、もうジムのみんな知っている。谷岡さんとご飯に行ったときに話したら、次の日にはもう会長も竹下君も知っていた。
「もう一年ボクシングしてんだから、そろそろリベンジしろよ。相手、素人だろ?」
なんて言われても、なかなか踏み出せなかったが、やっと決めた。
この試合が終わったら、正式に金髪坊主にリベンジしよう。
とにかく今は目先の試合で勝つ。そして強くなった自信をつける。そのためには絶好の相手だった。そしていよいよ大会の日がやってきた。