そして、辛うじて海難事故から逃れて、浜辺に辿り着いた男が、

苦しそうに肩で息をついて

振り返り荒海を見るように

私の魂も、まだまだ捨てたもんじゃないと、

人生を振り返りながら、

森を俯瞰で見つめ直した

疲れた体を少し休めた後、

私は人のいない浜辺を歩き出した

否、もしかしたら、眠っていたのかもしれない

すると、森の奥から突然に、

軽快で敏捷なヒョウが現れた

皮に斑点のある間違いなくヒョウだった

面と向かい合ったが、立ち去りもせず、

逆に行く手を遮ろうとするから、

引き返そうかと何度も躊躇った

時はおりしも朝明けの刻、

太陽が星々を従えて昇ってきた

 “存在”の愛が初めて天地の美しい事物を動かしたときにも、

太陽と共にあったあの星々であった

この朝という刻も、この爽やかな季節も、

この毛並み鮮やかなこのヒョウを、

「恐れることはない!」と言っているように思われた

だが、ほっとしたのも束の間、

今度は一頭のライオンが、目の前に現れた


注1:原作「神曲地獄篇」第三歌、第二十一歌の場面よりイメージ。

注2:主人公。「神曲」の作者。本作では様々な自我を持ち、ふたたび地獄を巡る。

注3:ローマのアウグストゥス時代の代表的な詩人。本作では禿面の老人にしてしまったが、後年の絵画ではなかなかのイケメンに描かれている。ダンテ・アリギエーリに多大な影響を与えた。

注4:おそらく第七の谷のハルプュイアイの森。ここではまだはっきりしない。第十三歌で到着。自殺者の森である。

 

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