ロイは時々仲間のリックと一緒にロンドン競馬場に行って、二人でビールを飲みながら馬券を買って楽しむのがストレス解消の一つだった。今日の日曜日もリックと約束しロンドン競馬場で十一時に会う約束で先に来て、パドックを見て楽しんでいた。
ロイは、よく手入れされた競走馬を見るのが大好きで馬達は芸術品だと見ていた。パドックで馬の入れ込み度合いや落ち着きの良し悪しを見て、乗り手と毛づやが良ければ無理のない範囲で賭けて楽しんでいた。
今、目の前にいる栗毛の馬がゆっくり歩きながら首を上下に揺らして早く走りたいと言っているのが聞こえるようだった。その割に歩き方はどっしりし、光るような毛をしていて毛づやも良かった。
此れをひとつ買おうかな!と思っている時にリックが声を掛けてきて「ロイ、俺はこの馬が気に入ったから馬券を買うぞ! どうする?」と言ったのでロイも「勿論! 俺も買う! この馬は行くぞ!」と久しぶりに意見が合ってニコッとした。
二人が馬券を買って暫くするとファンファーレが鳴り、各所に置いて有る大きなTVの前に陣取ってビールを片手にじっと見入った。
栗毛のスタートは悪くなく、ずっと中盤につけてトップを狙って来ていた。最後のコーナーに来た時に放たれた矢のようにスルスルスルと上がって先頭に立ち一馬身以上離してゴールした。
ロイとリックは大はしゃぎ、ビールを上下に揺らして零しながら大声を上げ、肩を組んではしゃぎまくり回転木馬のようにその場をグルグル回った。二人で勝ったのは久しぶりだ!
二人は飲み干して、ビールカップを返却すると払い戻し場へ直行し、嬉しい勝ち金を受け取った。二人は気持ちが少し豊かになったので未だ時間が早いがパブに行こう! と盛り上がり、競馬場近くのパブへ行き外の景色を見ながらフィッシュアンドチップスを肴にビールを飲み始めた。
話題はやはり仕事の話になり(だから何時も店の外で飲むのだが……)、ロイが今抱えている奇妙な事件が有ると言ってピカデリーホテルの事件を語り始めた。手榴弾を使った事件という事で殆どの警部は知っていたが、リックはロイが担当しているとは知らず静かに聞いていた。
ロイが犯人の残したアラビアナイフが二本有ると言うと突然リックが、「え!」と少し大きい声を出してロイの目を見た。
ロイが不思議な顔をしてリックを見るとリックが「先日のビッグバンホールでアラブの王子と王女が襲われた件は知っているだろう」と小声で言って、「どうやら襲ったのはアラブ人らしいと考えている。犯人が残したハンドガンの製造元を調べているところだ!」と語った。「犯人は大声を出して天井を撃ったのだがその時の言葉がアラビア語だったらしい……」
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